介護職の働き方改革の前に着手することは

難しい介護職の確保。どこから着手する?

介護職の定着はいまや「看護職より難しい」との声が聞かれます。そのため医療現場では様々な取り組みを進めていますが、もっと根本的なところに手が付けられていないのではないでしょうか。

介護職の定着やモチベーションアップは「マネジメント」の観点から議論されることが多いようですが、それ以前の問題が解決されいないと考えています。

介護職も他の医療職と同じく、自分の身を削って患者さんや利用者さんに尽くす仕事ですが、そのわりに、生理的欲求が満たされていない印象があります。本来、仕事等を通じて実現する欲求はマズロー欲求5段階説で言うところの「自己実現」「承認」あるいは「所属と愛」といった高い次元の欲求を満たすことになると思いますが、それ以前の問題として、「生理的欲求」が満たされていないのです。その状態で身を削って他人に尽くすのはかなりストレスになります。

生理的欲求が満たされないというのは、かなり辛いものです。たとえば、電車のなかでお腹がグルグル鳴っているときに、他者貢献など考えられません。まずはトイレです。そういう状況に陥っている人たちが病棟のなかにいると考えれば、理解しやすいのではないでしょうか。

看護師はまだ待遇面でも「承認欲求」を満たすだけのものは得ている場合が多いでしょうし、何より医療に関わることで得られる「自己実現欲求」を満たす機会は多いと思いますが、介護職はそこまで進んでいない気がします。

患者さんは問題を抱えている人たちで、仕事自体が苦痛や痛みなどの「問題探し」になりやすいので、それを解決する仕事に従事すること自体がかなり身を削ることになります。これが積み重なっていくと、自分を愛せなくなる。実は、これは患者さんにも伝播します。疲弊した看護師、介護職を見ていると、ナースコールを押すのに遠慮が出てきます。この循環を変えないといけません。「心の健康があって、はじめて患者さんに貢献できる」ということを知っていただきたいです。

介護職がヤル気になるマインドセットとは?

あなたにとって、人や組織が成果を出す唯一の方法を1つ上げるとしたら、なんでしょうか?「目標管理」や「行動指針」、「モチベーションコントロール」などいろんな意見があるでしょう。私も最初「リーダーシップ」とか「ミッション」が大事だと思っていました。

しかし、5年間くらい前からあることを意識するようになってから、飛躍的に成果が上がることを実感しました。近年さらにそれが加速していて、いくら言っても言い足りないくらいなのですが、それは何かを言うと「安心・安全・ポジティブな場」です。つまり何をするかより、どういう場をつくるかです。

いったいどんな場なのでしょうか。それは、何を言っても否定されない、批判されない、恥をかかされない場のことです。これを逆に言うともっとわかりやすいかもしれませんね。安心→不安、安全→危険、ポジティブ→ネガティブ。つまり「不安で危険でネガティブな場」です。

みんさんは不安で危険でネガティブな会議って見たことありませんか?。「何か意見はないのか」と求められたので、せっかく発言したのに「そんなの前やったよ!もっと他に意見はないのか!」と一蹴されてしまうこと。

そんな場では「もう、二度と意見なんかするもんか」と思いますよね。そんな場でクリエイティブな意見が出てきそうでしょうか。

そういう会議の司会者は正解を求めてしまう傾向があります。自分が求めている回答に達しないと、「いや、そういうことではなくて……つまり」とレクチャーが始まってしまいます。こうなるともはやミーティングではありません。

この背景には「4つの不安」があります。それは「恥」をかく不安、「否定」される不安、「仲間はずれ」にされる不安、「辞め」させられる不安です。辞めさせられないまでも、部署を移動させられるというのもここに入ります。

まず、この4つの不安を取り除いてあげることです。現場の皆さんは「患者さんに尽くしたい」という思いでアクセルを踏んでいるけれど、同時にこの4つの不安というサイドブレーキがかかってしまっている。これを外してあげることです。

介護職に行うべきマネジメント層のアプローチ方法

一番よくないのは、「聞く姿勢」をつくる前に、力技で何とかしようとしてしまうことです。例えば「患者さんのためなんだから」という殺し文句を使って義務感、使命感に訴えること。特に職責が上がると、そういう不安を持っている人たち対して「受け身」「指示待ち」「意見を言わない」と評価してしまいがちですが、そうすると最後は「仕方がないから自分で解決してしまおう」となるわけです。これは間違いです。

まずマネジメントする側が相手に対し「聞く姿勢」を作ることです。何を言っても「恥」をかかない、「否定」されない、「仲間はずれ」にされない、「辞め」させられる心配はないことを知ってもらい、サイドブレーキをはずしてあげることです。

話し合いも最初のうちは、あまり前向きな意見は出てこないでしょう。しかし、そこでその意見を否定せず、「なるほど、そういう意見もあるね。その着眼点おもしろいね」と肯定してあげるのです。すると、それが呼び水となって、「こんな考えはどうですか」「私たちはこんなこともできます」といった意見が出てきます。

それが積み重なっていくうちに、例えば20番目に本当に良い意見が出てきたとします。実際それを実行してみたらうまいいったとしましょう。では、誰の手柄でしょう? その人は、はじめからその意見を持っていたのでしょうか。おそらく、それは1~19番目の人たち意見の総和によって導かれた意見です。

私はこれを「積み石効果」と呼んでいますが、不安・危険・ネガティブな場では絶対に起こりません。

介護職には心理的安全性が求められている

病院ではしばしば、図のような状態が見られます。心理的安全性が保たれるのは、それはそれで望ましいのですが、やはり責任も伴ったほうが組織運営上は好ましい。医師はしばしば病院経営に責任を感じないというか、関心がない人がいますし、事務職も身の回りの快適性が満たされればそれで満足してしまう場合もあります。

一方、介護も看護とほぼ同じ位置にいると思いますが、心理的安全性が伴わないなかで、患者さんと向き合う責任はあります。

これがもし、心理的安全性が高い状態で保たれ、責任性が伴っていたらどうなるでしょうか。「○○さん、あなたが頼りよ」「責任は上司である私が持つから、頑張って!」と言われたら。きっと主体的に学習を始めて、成果を挙げようとするのではないでしょうか。そこには、別に特別なマネジメント手法は存在しません。ただ「安心・安全・ポジティブ」を感じられる場があるだけなのです。

最も効果的なモチベーションアップ

実践はシンプルです。まず自分のネガティブな発言のパターンを認識し、相手に承認を与えるだけです。ただ「あなたがいると助かる」「職場の雰囲気が明るくなる」といったことで十分です。そこに「あなたは○○をしてくれた。だからすばらしい」といった根拠は必要ありません。むしろ根拠のない自信こそ行動の拠り所になります。人事考課は、行動や結果に対する承認のことですから、根拠のある承認と言えます。でも、それはもっと後に取り組むべき課題です。

特に介護職は、報酬の多い少ないにかかわらず動く人たちです。患者さんや利用者さんが心配だからと言って終業時間を過ぎても残る人たちが本当に多くいます。だからといって、そこで残業代を請求する人は少ないでしょう。

意識的に場づくりを実践する

もちろん患者さんに貢献したいと思っても、そのための手段がわからなければ行動に移せませんから、その手段を伝える必要はあります。

それを伝える際は、やはり「研修の場」のような特殊な場をつくることをお勧めします。先ほどの「4つの不安」の話も踏まえると、臨床の場でいきなり伝えるのは難しい。職場も同じです。「ここならしくじっても安心」という領域で学ぶほうがいいでしょうね。

そこでできるようになると、自ずと職場、臨床の場へと広がっていきます。現場で課題があっても自分たちで解決策を模索するようになります。繰り返しますが、介護職は本来、患者さんに貢献したいという気持ちの強い人たちです。それを上手に引き出してあげていただきたいです。

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