医師を動かすコミュニケーション術 第四回

病院経営について

医師を動かすマネジメント第四回は、総合診療医のアイデンティティ。総合診療医のスキルとヤル気 活かせる場はどこにあるのか?
医療は高齢者が患者の大半を占めるなか、臓器横断的に診療できる「総合専門医」が脚光を浴びていまが、実際には専門医の隙間を埋める「何でも屋」と位置づけられて不満を募らせる医師も多いようです。ニーズは確かですが、そのスキルをどう活かすべきなのでしょうか?

国の方向性もあって総合診療医になってみたが……

慢性疾患を抱えながら一生を終える人が6割と言われる今、2018年からスタートした日本専門医機構では総合診療専門研修プログラムが整備され、臓器横断的に、地域のあらゆる患者を多角的に診療できる医師の育成をめざしています。

また、テレビに出てくる「ドクターG」のような、初診で難しい診断までこなせるスーパードクターや、時間をかけてさまざまな専門を身につけるスーパーゼネラリストを育成することで、結果的に、医療経済にも優しい医療体制をつくろうというムーブメントがあり、近年では、こうした総合診療科を志望する若手医師は増えてきています。ところが、このムーブメントに対する現場の実態とは、少しギャップがあるようです。

腕の振るいどころがない総合診療医

複数の合併症を抱え、診療科の狭間で行き場を失いがちになっている患者を、包括的に診療するスキルを有する総合診療医は、高齢化がピークに向かっている昨今、引く手あまたです。

しかし、大学病院や大学の派遣先のなかでも、有力な大手の病院、あるいは全国から初期研修を受け入れている地域の中核病院のように、各専門科が充実し、診療も勉強もできる環境にばかり集中しているのが実態でしょう。

診療科のラインナップがそこまで充実していない市中の病院の場合では、細分化された専門性よりも、総合する専門性を有する総合診療医が求められていますが、そういう病院に就職すると、カテや外科系など手技系の医師が経営面から重視され、自分たちは専門科の隙間を埋める「何でも屋」と言いたくなるような経験をしてしまいます。

このように、せっかく総合診療で多くの患者を診療したとしても、総合診療科という看板を活かせる場所は「以外と少ない」ということが、医師のほうにもわかってきています。

「 30 〜 40 代で体が動くうちに地域に貢献しよう」と市中の病院に就職しようと思っても、経営に重きを置いた診療と、救急やオペをたくさん受けなくてはならないという現実を目の当たりにし、「やはり大学や大きな病院でなければできない」ということを感じ始め、たとえ市中病院で働くことに関心があっても、期待していた総合診療科ではないということがわかるわけです。

すると、次第にやりたいことというより、やりたくないことを自分で選べなくなってきて、そのうち専門が決まらない、あるいは専門にそれほど関心がない感覚的なゼネラリストたちのモラトリアムの場所になってしまうことが懸念されます。

市中病院の事情(実質的に総合診療)

一方、中規模の市中病院で活躍している総合診療医のなかには、救急に関心があり、そこに総合診療医としてのやりがいを感じている場合もあります。結局、専門科が専門のことばかりやっていては患者さんが集まりにくいので、専門科に該当しにくい初診、診断のつかない症例をすべて総合診療医が対応することで増患に結びついています。

また、総合診療医が多様な疾患を診ているところを見せることで、〝やりたいことしかしない医師〟に対し、暗にプレッシャーをかけるという効果もあり、内部の実働側からできる、〝組織への刺激入れ部隊〟にもなるというメリットもあります。同職種だからできる刺激を与えることで、病院全体の診療パフォーマンスを上げることにもつながるでしょう。

前提としてそういう病院は、まず院長が「何でも診よう」と打ち出していて、それに賛同している医師たちが一般内科にも降りて診てくれる──という体制をもっています。消化器外科であろうと循環器内科であろうと、お互い譲り合わなくては成り立たないことを自覚しながら体制をつくりあげることで、専門外を何でも総合診療医に押しつけるということはなくなります。

そのような病院では、診療体制を理解している医師が自然に集まる傾向があり、それを実感した総合診療医が、そこで働きつづけるようになります。

総合診療医のアイデンティティ

ムーブメントとして、総合診療という方向性にシンパシーを感じている医師は多いと思いますが、総合診療医のキャリアパスは多彩です。役割もまた、その医師が置かれている環境によってさまざまです。救急医療で果たすべき役割が特に大きい市中病院では、救急外来全体を俯瞰しつつマネジメントできることが重要な能力として求められますし、診療所などで診療にあたる場合には、医学的側面だけでなく、心理・社会的側面からのアプローチも必要とされるでしょう。

このキャリアパスの多様性は強みである一方で、多様であるあまり、あいまいでわかりにくさが生じています。これが、「総合診療の道へ進むハードルになっている」という、若手医師の声をよく耳にします。

地域に根ざす中小病院では、患者を総合的に全人的に診療できるゼネラリストが不可欠ですが、総合診療医に進むことを決断するには、このようにさまざまな不安や葛藤があります。
新専門医制度でも、目玉とされた総合診療専門研修を始めた専攻医は、 18 年は全国で184人、今年度も150人あまりと低迷しています。「他の領域と異なり、運営を専門医機構の直轄としたために制度設計が遅れ、総合診療医像を明確に描くことができず、専門医となった後のキャリアを示せなかったことなどが影響したとみられる」との指摘もあるとおり、まさに、キャリアパスを明確に示すことこそが、総合診療医が日本の医療を担う存在になるカギとなります。

 



 
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執筆者

 

 

 

 

TEPPEI SUGIURA

株式会社メディテイメント

代表取締役  杉浦鉄平

30年以上にわたる病院勤務(臨床15年、看護部長10年、事務局長5年)と、病院コンサルタント経験で培った、病院経営における人、モノ、カネすべての問題を解決するメソッドを体系化。このメソッドをより広く普及させるためにメディテイメント株式会社を設立。また、セコム医療システム株式会社顧問に就任。「病院再生コンサルタント」として、多くの病院の組織変革を実行し、高い評価を得る。現在は、コンサルティングと同時に、病院管理者研修、病院の意図を理解し、自律的に行動する医療経営人財を育成する「医療経営参謀養成塾」を運営。

 

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