相手が気づいて自ら動くには質問力を磨く必要があります。人は教えられるより気づきたいもの。気づくと行動したくなります。初めに導きたいゴール決めそのにたどり着かせる質問力とは。
叱ることと、問うことのむずかしさ
人を叱るというのは、とても難しいことではないでしょうか?頭ごなし叱っても人はやる気をなくすだけですし、こちらの話に理解、納得できなければ、反発を買うだけです。
社会に出て部下を持つと一番悩むのがこの叱るという行為です。言い方を間違えるとパワハラで訴えられかねません。
子育てでも、仕事でも叱るときについ自分の感情が乗ってしまうことがあります。職場でつい自分のイライラを無関係の部下に吐き出すように叱ってしまう場合もあるかもしれません。
一方で感謝される叱り方もあります。
看護部長になりたての頃、無意識に礼を逸し、理事長の気分を害してしまったことがありました。翌日理事長に呼び出され、その時言われた言葉は今もよく覚えています。「あなたがレッテルを張られるのは不幸だと思う。だからあえて言うけれど、これは私の誠意だと思って聞いてほしい」
人を叱るときに重要なポイントは、個人的な感情で叱るのではなく、相手の成長を願うことではないでしょうか。私は言い難いことをあえて誠意をもって伝えてくれた、理事長に対し、とてもありがたいと感じました。上の立場になればなるほど、人に叱ったもらえる機会は少なくなります。だから私は恩に報いるために、もっと人間的に成長したいとその時心から思ったものです。
経営の神様と言われたパナソニック創業者である松下幸之助は、頭ごなしに叱りつける代わりに、たくさんの質問をすることが多かったそうです。
例えば「あの件について君はどう思っているんや」と質問形式で聞かれるので、鈍い部下は気づかないかもしれませんが、センスが良い部下は「やばい、これは単なる質問ではなさそうだ」と感じ冷や汗をかいたことでしょう。
叱ることと同様、日本人は質問するのが苦手だと言われています。ましてそれを同時にやるとなると、いったん自分の感情を横に置いて叱る練習が必要となります。
導きたいゴールがあるならまず質問力を磨く
相手に伝えたい価値や導きたいゴールがあるとき、答えを知っている人は、はやくその方法を教えたくなります。しかし、人は他人にコントロールされたくありません。関係性が構築できていれば上から教える指導も有効な場合もありますが、やはり人は自分で気づきたいのです。
では、気づかせるにはどうしたら良いでしょうか?
答えは質問をすることです。質問は前述の叱り方でも使えますが、問題解決の手法としても不可欠です。
問題を解決する質問法の極意
1)タイトルを決める
コンサルタントは知識やノウハウを教えるイメージが強いかもしれませんが、私はなるべくアドバイスをしないようにしています。理由はクライアント本人すら何が本当の問題かわかっていないことが多いからです。私はこのことをコンサルタントの師である、和仁達也氏から直接学びました。
みなさんは人の相談にのりながら、話が脱線し、途中でテーマが変わってしまうという経験はなかったでしょうか?そうならないために、まず、最初にお題を決めておくということです。私は冒頭で「今日のご相談にタイトルをつけるとしたらどうなりますか?」と質問するようにしています。相談に乗っているのに堂々巡りで迷子になるケースは、だいたいこのタイトルを決めていないことがほとんどです。
2)フルカラーに描けるまで現状把握する
お題が確定したら、さらに深く、深く質問していきます。お題が決まっているのになぜさらに質問をするのか?それは状況把握が問題解決の8割だからです。どのくらいまで状況把握をするかというと「フルカラーで描けるレベルまで」が8割の水準だと考えています。8割現状把握ができれば、あとは2割の専門性で解決できます。
しかし、多くの人は早くアドバイスしてしまう傾向があるようです。相談は相手の状況を理解してアドバイスするのが前提ですが、その前提が間違っていたらその結論がブレてしまいます。まだ状況が不確定であるにも関わらず自分の知識を掘り起こして伝えてしまう人が、あなたの周りにいないでしょうか。例えるなら蚊に刺されて背中がかゆいのに、刺された周辺を掻いてもらっているもどかしい状態です。どこがかゆいか指をさしてもらう。それが質問の意図です。
3)一気に核心にたどり着くマジッククエスチョン
コンサルティングの仕事で相手の相談に乗る際にもっとも大切なことの一つは、問題の核心を突き止めることです。そして相手の相談や質問の意図を正しく把握して、相手が本当に必要とする答えを返してあげることです。
当たり前のようですがこれがなかなか難しいのです。なぜなら相手も考えがまとまらないまま、言葉を投げてくるからです。
そこで、たった1つの質問で寄り道せず相手の考えの核心にたどり着く方法があります。それは相手に質問を投げかけ、返ってきた質問に「なぜ、そう考えられたのですか?」と返し楔を打つことです。
ただし、この場合言い方が大事です。表情や声のトーン、雰囲気で話しやすい状態を作らなければいけません。
4)どういう立ち位置から質問していることかがわかる「前置きトーク」
しかし、このマジッククエスチョンを「怖くて聞けない」という人もいるいでしょう。「なんでそんなこと聞くの?」と怪訝な顔をされたり「わかってない」という顔をされるのが怖い。つまり自分がそれを尋ねる正当性に疑問があるからです。
その場合は事例を挟んだり、どういう立ち位置から話をしているかがわかる「前置きトーク」(=意図を伝える)が重要です。
例)「病院で起こっている問題を明らかにするために、いろいろ突っ込んだこともお聞きする場合があります」「例えば他の医療機関では、○○という事例もあるようですが、御院のでは、そのように考えられたのですか?」
以上、質問力を磨くことはただ情報を引き出すだけではなく、思考し、答えることで相手が気づき、自ら動いてもらうために有効です。叱るときも相手に対し、導きたい行動があるのなら質問を通じて、たどり着かせるプロセスがとても重要です。
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執筆者
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TEPPEI SUGIURA
株式会社メディテイメント 代表取締役 杉浦鉄平 30年以上にわたる病院勤務(臨床15年、看護部長10年、事務局長5年)と、病院コンサルタント経験で培った、病院経営における人、モノ、カネすべての問題を解決するメソッドを体系化。このメソッドをより広く普及させるためにメディテイメント株式会社を設立。また、セコム医療システム株式会社顧問に就任。「病院再生コンサルタント」として、多くの病院の組織変革を実行し、高い評価を得る。現在は、コンサルティングと同時に、病院管理者研修、病院の意図を理解し、自律的に行動する医療経営人財を育成する「医療経営参謀養成塾」を運営。 |