医師を動かすコミュニケーション術 第五回

相手が気づいて勝手に動く対話術

医師を動かすコミュニケーション術の第五回は、医師のマインドに「経営」の二文字を刻み込むためにまず何ができるか、考察してみたいと思います。

医師が聞く姿勢をつくる研修のやり方とは?

近年、幹部職員の自主的な経営思考を育むために、外部講師を招いて積極的に研修を行う病院が増えてきました。筆者もよく依頼を受けますが、このような研修で、ターゲットである医師が参加することは稀です。

現場が忙しいこともありますが、病院も積極的に参加を求めていません。理由を聞く
と「今まで誰も参加しなかった」「今忙しいと叱られる」「どうせ言っても参加してもらえない」などと言われてきた経験から、「医師は集合研修に参加しない」という固定観念を持ってしまっているようです。

生産部門であり収益に直接かかわる医師が経営に参画しなくては、研修を開いても組織全体としての効果は限定的です。また病院側も、研修に参加を強く促す正当性(言語化)が弱いことや、研修が不発だったときの医師のリアクションが怖いのかもしれません。

先日ある病院で、幹部医師が複数人参加する研修を行いました。院長から直接依頼で受注した研修でしたので、多くの幹部医師が参加していました。中には初めから斜に構えていたり、リアクションが薄い医師も複数いましたが、冒頭の5分間であることを伝えると、聴く姿勢を作ってくれて、途中ワークではその医師が一番活発に議論していました。

あとで事務担当者に聞いた話では研修前に「どうして、こんな忙しいときにそんなものに出なきゃならないのた」と怒鳴られたそうです。

医師には最初にベネフィットを伝える

では、なぜ参加を嫌がっていた医師の態度が変わったのでしょう。医師のように権限や高いプライドを持つ人たちは、こちらが客観的に正しいことを伝えていても、なかなか理解してもらえないことがあります。病院や職員、患者さんのために正しいことを言い続けているのに、素直に「YES」と言ってくれません。なぜか?

それは「理由がわからない」からです。

理由とは、病院側からみた「医療を永続するために経営改善しなくてはならない」といった大義名分ではありません。医師はそれをやることによって「自分たちにどんなメリットがあるのか」を知りたいと思っているのです。

決して経済的メリットだけではありません。キャリアに対するニーズやウォンツ、そして、専門領域での理想の働き方、診療を支援するチームの体制など、非経済的メリットもあります。むしろ、後者のほうが大きいかもしれません。つまり、それを実現する手段として経営参画することについては理解するし、納得できれば、医師はロジカルなので、行動喚起が早いのです。

日頃からの関係性にも配慮し距離を縮めておく

筆者の場合、冒頭で、この研修を受けるメリットを伝えています。「日頃仕事で感じている疑問が解消されそう」とか、「今自分が抱えている悩みが解決できそうだ」と感じてもらえる、前置きトークです。

たとえば「 10 分で、部下や他部門が自分の望む行動をとってくれるようになる対話の型を2時間で習得できる」「わずか2割の会計知識で、およそ8割の経営判断が現場でできる、利益が医師のモチベーションになるお金の話」というように、最初にベネフィットをはっきり訴求します。

さらに、それぞれのテーマに対する他病院での事例で実感を持たせ、まずは相手に聞く姿勢をつくってもらうことに心がけています。付言すると、研修前に会場で参加者と個別に話をし、どんなことに困っているとか、どんな働き方がしたいかなど、リサーチも兼ね、できるだけ関係性を構築します。一対一で少しでも距離を縮ておけば、一対多になったときも自然に距離が短くなるからです。

院内では、関係性が不十分なままに、正論による説得・説明によって失敗する例が散見されますが、人は何を言うかより、誰が言うかが優先するので「あの人が言っていることは正しい、でも、あの人が言っているから私はやりたくない」という感情論になりがちです。したがって、日頃からコンスタントな会話に心がけ、関係性を構築しておくことも重要なのです。

「教えられたい」より「気づきたい」に訴求する

また、ワークなどに頭の良い医師を巻き込むコツは、「教えられる」より「気づきたい」という欲求にアプローチすることです。臨床では診断したら自ら治療したいという欲求が働くのと同様に、研修でも、導きたいゴールがあるときは、質問を通じてたどりつかせるというプロセスが大切です。

たとえば、質問で相手の頭のなかにクエスチョンマークをつくってから、次に「なるほど」と思ってもらう答えを用意します。これを繰り返すことで相手は聞く姿勢をつくるようになります。また、人や組織に関するテーマの場合は座学ではすぐ飽きられてしまうので、仮想体験ゲームなどを活用し疑似体験をさせることもあります。ゲームを通じて人や組織の構造的な問題を見極めるのは、なかなか知的好奇心を刺激するので、これが結構ハマります。これを多職種合同でやると、医師の分析力、判断力が際立つのでグループのなかで存在感が高まり、モチベーションが上がり、良いコミュニケーションも生まれます。

実は、経営も診療もプロセスはよく似ています。すなわち診療プロセスは①患者の状態観察→②検査データ→③臨床診断→④治療であり、経営プロセスは①企業の状態診断→②経営診断データ→③経営診断→④経営改善なので、医師は経営が得意と考えるべきでしょう。

医師の心理属性や思考の癖を理解し、ニーズ・ウォンツに応えるというメリットを起点にして、医師を経営参画に導いていただきたいと思います。きっと、経営改善に大きなインパクトをもたらしてくれるはずです。

 





世界17ヵ国、のべ50万人に広がる日本発の教育メソッド

「ほめ育」医療業界の職場に取り入れる

方法をお伝えします。


※決算書なんて読めなくても、

経営改善の意思決定がっできるようになる

無料公開中のセミナー動画

・病院の経営状態と適切な判断がすぐにわかる「お金のブロックパズル」
・人件費の上限がすぐにわかる労働分配率の話
・必達売上目標を算出する7つのステップ
・自己主張ばかりの人たちを根底から変える方法
・病院の決算書をカンタンな図にする方法
・3つの数字を改善して利益を伸ばす方法
・自主的に動くスタッフを増やすには?
・人を動かす思考の型
・職場の生産性を上げる有効な方法)
・「なにをやるか」より「どうあるか」で成果が変わる理由

 

※ご登録いただいたメアドへ、約122分のセミナー映像を完全無料でお届けします。
※ある程度のお申込があり次第、この無料キャンペーンは受付を停止いたします。

執筆者

株式会社メディテイメント

代表取締役  杉浦鉄平

30年以上にわたる病院勤務(臨床15年、看護部長10年、事務局長5年)と、病院コンサルタント経験で培った、病院経営における人、モノ、カネすべての問題を解決するメソッドを体系化。このメソッドをより広く普及させるためにメディテイメント株式会社を設立。また、セコム医療システム株式会社顧問に就任。「病院再生コンサルタント」として、多くの病院の組織変革を実行し、高い評価を得る。現在は、コンサルティングと同時に、病院管理者研修、病院の意図を理解し、自律的に行動する医療経営人財を育成する「医療経営参謀養成塾」を運営。

 

タイトルとURLをコピーしました